2018年4月8日

故郷喪失者

わたしはロヒンギャやシリアの人々のような形で故郷を喪ったのではない。
足尾や水俣やフクシマや沖縄のような形で喪ったのでもない。

しかしここにひとりの故郷喪失者が、難民がいる。

あなたは東京オリンピック(1964年)のために、東京の川の上に高速道路が建設されてしまったことを知っているだろう。
なんと醜悪な風景なのだろうか。国は自らの環境まで食い尽くした。川に寄生しているどころか、川が生み出してきた文化も歴史も風景も破壊している。戦争は風景を一時的に壊すが、交通機関は次々と日常風景を壊し、それが最早日常の風景であるように人々を錯覚させる。
高速道路を作れば、駐車場が、インターチェンジが、その他の施設が必要となる。そのうえ早く便利な高速道路沿いには、さらにビルやマンションが寄生してゆく。すると車の量は増大し、車は渋滞する。そうなればさらに道路をつくる。すると道路の両脇には建物が寄生し・・・こうなればもう川を覆っている高速道路を壊すことはできない。
この際限のない寄生ゲームのなかで、建物は巨大化し、高層化を進め、道路もまた高層化し、大地どころか大気をも「むしゃむしゃ、がぶがぶ」と覆いつくしだす。
そして私たちはいつの間にか、私たち人間が大地に、大気に寄生した生物であることを忘れる。機械の中で人間本来の身ぶりを忘れる。人間の身体寸法を忘れる。人間が赤ん坊から子供になり、やがて老い、身体の自由さを失うことを忘れる。忘れるとは、心をなくすことであることさえ忘れる。
ー 松山巌 『住み家殺人事件 ー 建築論ノート ー 』

故郷喪失者とは、母国によって母国を奪われた者たちのことだ・・・故郷(ふるさと)を破壊するのは、戦争や空襲だけではない・・・





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