Blues Dictionary 【か行】


【か】

○ カレンダー Calendar

以前は年末になると伊東屋や丸善のカレンダー・フェアに足を運んでいたけれど、もう何年もカレンダーを買っていない。
カレンダーは未来の、来週の、明日の予定がある人のためのもの。
「訪う人もなく行く当てもなし」といった境遇には無用のもの。

○ 風 Wind

風には色がない。風には匂いがない。けれども風は花の香りや草の匂いを運ぶ。
秋になれば風はさまざまな色を宙に舞わせる。

風がなければ感じることができない匂いがある。
風がなければ見ることの出来ない色がある。

何故ならぼくらはいつでも自由に動けるからだをもっているわけではないのだから。

○ カミユ Albert Camus

"There is but one truly serious philosophical problem and that is suicide. "

「本当に重大な哲学的な問題はただひとつしかない。それは「自殺」だ」

○ カミユ Albert Camus

" Should I kill myself ? or have a cup of coffee ?

「自殺するか?それともコーヒーを一杯飲もうか?」

○ ガラスの動物園 The Glass Menagerie

○ ガラスの瓶 Glass Bottles

映画『鬼火』で、主人公アラン(モーリス・ロネ)の病室の鏡の前にはいろんなビンが雑然と並んでいた。アフターシェーブローションやオーデコロンもガラス瓶だったし、酔って帰ってきて水を飲む時も長いガラスの瓶からだ。

冷たく硬質な手触り、重み、窓から差し込む外光を反射させる表面、そしてビン同士が触れ合う時の音。
プラスチックに囲まれた生活はカサカサと乾いた音がする。

○ 回転木馬 Carousel

遊園地には水平に回る回転木馬と天に向かって上り地上に下りてくる観覧車があって、ぼくは高いところが好きなので観覧車を好むのだけど、子供たちは静的な観覧車よりもぐるぐる回る回転木馬が好きだ。

昔のモノクロ写真には素敵なメリーゴーランドの写真がたくさんある。イジス、ドアノー、ウィリー・ロニス・・・何故かパリの写真が多い気がする。ただ、観覧車でキスはできるけれど、回転木馬に乗ってキスはできない。無理にしようとして、落馬しないように・・・

○ 紙芝居 Picture Card Show

演劇や映画がごく一部の人の観るものであったときには、確かに動く絵は「紙の芝居」だ。
かみしばい。なかなかいい名前だ。そういう意味では絵本も漫画も紙芝居の一部かも知れない。

ぼくが子供の頃にはまだ紙芝居屋さんというのが近所の公園に来ていたっけ。
あれが最後の時期だったのかもしれない。
土門拳や田沼武能(たけよし)などの、昭和の子供たちを撮った写真には必ずと言っていいほど紙芝居屋さんと、群がる子供たちが写し出されている。男の子たちはみな(サザエさんの)カツオのような、そして女の子たちはワカメちゃんのような頭をして。

○ カスパー・ダヴィッド・フリードリッヒ Caspar David Friedrich

ドイツ・ロマン派の画家。「廃墟」や「月夜」「森」などのロマン派的、静的なモチーフの絵を
遺した。印象派の対極にいるような画家。
フリードリッヒに春の日差しは似合わない。
もっとも好きな画家のひとり。

○ 枯れ葉 Autumn Leaves

「焚くほどは 風が持てくる 枯れ葉かな」一茶

昔、枯れ葉は焚火にするものだった。いつの頃からだろう、ゴミのように(ゴミとして?)ビニール袋に押し込められるようになったのは。―― 秋の情緒と一緒に。

○ 案山子 Scarecrow 

『オズの魔法使い』に出てくるカカシの頭には藁がいっぱい詰まっていて脳みそがない。「ああ、いろんなことを考えることが出来たら!」といつも考えている。

○ カミング・ダウン・イン・ザ・レイン Comin' Down in The Rain 

大好きな曲。ナンシー・グリフィスの1993年のアルバム『Other Voices Other Rooms』に入っているさびしいバラード。
オリジナルはバディ・モンドロック。

○ 蛾 Moth 

蛾(!)と聞いただけで嫌ってはいないか?

○ 鏡 Mirror 

どの映画(或いは小説)だったか忘れたけれど、病気でいつも寝たきりの子供が、手鏡を使って庭の花の間を舞う蝶を見たり、風に流れて姿を変える空の雲を眺めたりするシーンが印象に残っている。

「空は牢獄の窓から見た時が一番美しい」という言葉があったけれど、鏡の中の世界はきっと同じように美しいはずだ。

○ カラス Crow

女性の髪の美しさを譬えるのに、「髪はカラスの濡れ羽色」という。素晴らしい比喩。

○ 学校 School

昔「メントス」というミントのコマーシャルで、「放課後が僕らの学校だった」というコピーがあった。ほんとうにそう思う。

○ かたつむり Snail

「かたつむり そろそろのぼれ 富士の山」一茶

なんとも気宇宇壮大な歌。
永島慎二の漫画で、毛虫が、尺取り虫みたいに伸びたり縮んだりしながらのそのそと這いながら、
「世の中で・・・この俺くらい・・・のろまは・・・・いないと・・・・思っていたけどさ・・・
上には・・・・上が・・・・いるもんだねぇ・・・」とつぶやくと、そこは亀の背中の上だったというのがあるけど、カタツムリはそれ以上だ。

カタツムリが富士山を登っているという絵は描けないだろう。
カタツムリに焦点を合わせると、富士の山を登っていることはわからないし、富士の姿がわかるほどに引いてしまうとカタツムリが見えなくなってしまう。もっとも漫画のように「ここ、富士山登頂口」という立て札でもあれば別だけど。
ミニマムとマキシマムを同じ画面に同時に描出するということはできない。


【き】

○ キス Kiss

海辺に停めた車のバックミラー写るキスをする恋人たちの笑顔。エリオット・アーウィットの撮った1955年のカリフォルニア、サンタ・モニカ。最も有名なキスの写真の一枚。

先日あるブログで見つけた「どのように人を殺すか?」How to murder ?
そこにはこう書かれていた。

" Kiss them once, and never again... " 嗚呼、Never More... 二度とない・・・

○ 利き腕 Kiki Ude

鉛筆や箸を持つのは右手。自販機に小銭を入れるのは左手。ボールを投げるのは左手。
バッターボックスは右。ドラムは左利き。自動改札に切符を入れるのは左手。コーヒカップを持つのも左手。歯ブラシ、カミソリは右手・・・

ところで英語で、I'm a left handed man というと、「どうもぼくは不器用で」という意味らしい。古いモノクロ映画で観たシーン(セリフ)なので、今どきはそんな風には言わないのかもしれないけど。

○ キャロル・キング Carol King

キャロル・キングでは『タペストリー』の中の "So Far Away" という歌もいいけれど、
ザ・ドリフターズが歌った「アップ・オン・ザ・ルーフ」"Up On The Roof" が好きだ。

「この古い世界がぼくを落ち込ませ、人があまりに多過ぎると感じる時
ぼくはひとりで屋根に上る。
屋根に上れば下の世界の嫌なことは忘れられる・・・」

ビートルズの「オクトパス・ガーデン」が海の底なら、これは屋根の上。
引きこもり、とは言わなくても、人の世界から逃げ出す場所があるといいね。

○ 傷モノ Dameged

モノに傷は困るけれど、人間の心に関しては傷がある方がいい。
キズのついたレコードに価値がないのとは反対に、傷のないピカピカの人間は二束三文の値打ちしかない。

○ キャンドル Candle

キャンドルを使った印象的な映画として思い出すのは、アンジェイ・ワイダ監督の『ダントン』。フランス革命時のダントン派とロベスピエール一派の権力闘争を扱った歴史ものだが、ほとんどが室内のシーンで、彼らの衣装とともに、キャンドルの明かりに照らし出されたジェラール・ドパルデューの表情、一挙一動が素晴らしかった。

もうひとつ、これも主演はドパルデューだが、ポランスキー監督の『記憶の扉』。
古城のような警察署で、ドパルデューを取り調べるポランスキー演じる警察署長。
建物が古いせいか、辺鄙な田舎にあるせいか、雨漏りはひどいしすぐに停電する。
部屋を明るくするために、二人が向き合う机の上、そして壁際に灯されたたくさんのキャンドルの明かりが物語を一層幻想的にする。

フランソワ・トリュフォーに「キャンドル三部作」というのがあることを知ったのはつい最近のこと。『恋のエチュード』『アデルの恋の物語』そして『緑色の部屋』

『恋のエチュード』を最後に観たのはもう20年ほど前のことになるけど、何故か「とても美しい映画」という印象だけは強く残っている。
『緑色の部屋』は中古のビデオで持っていたが、観ないうちに処分してしまったらしい。そしてなぜかこの作品だけは未DVD化。嗚呼!



絵画とキャンドルというと、ジョルジュ・ド・ラトゥールということになりそうだけど、
ぼくはむしろ19世紀のオランダの画家、ペトルス・ヴァン・シェンデルを好む。
夜のマーケット。月の光の下、キャンドルの明かりで買い物をする女性たちの姿は息を飲むほどに美しい。いや、うつくしいのは市場を歩く女性たちや物売りの男たちではなく、優れた夜の風景画としてなのだが。

○ 銀座 Ginza

フランス+中国

○ 旧仮名遣い Old Character 


【く】

○ 草 Grass

草の上を、くさむらの中を歩くのが好き。草笛の音が好き。草のちょっと湿った匂いが好き。

ロベール・アンリコの『暗殺の詩』という映画で、酔ったフィリップ・ノワレが牛乳を、(もちろんガラスの大きなビンから)飲むシーンがある。「牛乳は大好きだ、草のにおいがする。クローバーのにおいがする」と。
そう。乳牛も草を食べて乳を作る。ぼくたちは緑の草からできた牛乳を飲みたい。

○ 蜘蛛 Spider

ルドンの黒い足長蜘蛛の絵が好き。

朝露や雨粒に濡れた蜘蛛の巣が好き。

女郎蜘蛛という綺麗な蜘蛛がいる。志ん生は「花魁蜘蛛」と呼んでいたっけ。

○ 狂っている Crazy

「狂っていないというのは、それはつまり、別の形で狂っているのであって、それほどまでにわれわれは全て狂っているのだ」-パスカル

○ クオ・ヴァディス Quo vadis ? 

「われわれは何処へ行くのか?」

○ 蔵の中 Kura no Naka 

横溝正史作の見事な耽美的なミステリー。複雑な構造が眩惑的だ。

○ 薬 Drug

気分がハイになるくすりが欲しい。
頭のよくなるくすりが欲しい。

ローリング・ストーンズに『マザーズ・リトル・ヘルパー』という歌がある。
「小さな黄色いくすり」だって。ちなみにこれはジアゼパム(Diazepam)という薬で、
アメリカでは「バリウム」(Valium)と呼ばれているらしい。

ある薬剤師のブログによると、ジアゼパム(Diazepam=ダイアゼパム)は向精神薬のひとつで、日本では処方箋がないと手に入らない薬だが、たまに外国の人がドラッグストアに「バリウムはありますか?」と訊いてくることがあるので、その旨説明しましょう、とある。
そして「造影剤のバリウムは全く別のもので、スペルはBarium」・・・ですって。

○ 「黒の」シリーズ Kuro Series

田宮二郎の「黒」シリーズ、好きだなぁ。『黒の超特急』『黒の試走車』『黒の駐車場』・・・


【け】

○ ゲイ Gay

ゲイの男性は芸術家肌で繊細だとよく言われている。
『蜘蛛女のキス』は未見だけれど、キューバ映画の『苺とチョコレート』はゲイの男性とヘテロの兵士の友情の物語でとてもよかった。

ゲイの友達がいたらいいと思う。

○ 現金 Cashu

古い外国映画を観ていて、いつもカッコいいと思うのは、カフェで、バーで、くしゃくしゃに丸めた札をポイッとテーブルの上に投げて席を立つシーン。あの無造作さがたまらなくいい。
本当に「紙屑」のように扱ってる。シワシワの札を取り出して「おい、ここに置くよ」と言って店を出て行く。

カードの支払なんて、味も素っ気もないというか、身も蓋もないというか・・・

○ 現実 Reality

テネシー・ウィリアムスの戯曲『欲望という名の電車』や『ガラスの動物園』では、現実の世界で生きることの出来ない主人公が描かれていて、強く共鳴してしまう。

○ ケチャップ Ketchup

オムライスの卵の上にケチャップで絵を描くのは、ぼくだけ?

【こ】

○ ゴヤ Francisco de Goya

大きな穴から顔だけ出している仔犬の絵。
雲の上に上半身を突き出してのし歩いている巨人。
極小と極大。

○ コーヒー Coffee

" I don't drink coffee I take tea my dear I like my toast done on one side ..."

「コーヒーは要らない。紅茶をたのむよ。トーストは片面だけ焼いて...」
スティングのEnglish Man In New Yorkの冒頭の歌詞。
なるほどこれが英国風?

○ ゴッホ Van Gogh

ゴッホ。ヴァン・ゴッホと言えば弟のテオもテオ・ヴァン・ゴッホだ。
テオがいなければヴィンセントもいなかった。
「ゴッホ」という時には2人のヴァン・ゴッホのことを言うのだ。

○ 今夜はトーク・ハード Pump Up The Volume

クリスチャン・スレーター主演、1990年の青春映画。

郊外のある町、夜の10時になると謎の高校生が海賊放送を流し始める。
優等生も不良たちも彼の放送に夢中になっている。けれども誰も「彼」が何者なのかは知らない。

彼の番組のオープニングで流れる曲はレナード・コーエンの「エブリバディ・ノウズ」
地の底から響いてくるような声、不思議なメロディー。

こういう放送があれば、ウン、聴いてみたい。

○ コアントロー Cointreau

フランス製のリキュール。アルコール分約40度

昔、有楽町駅前の電気ビル9階の記者クラブのバー&レストランでアルバイトをしていた。
珍しくカウンターに入った時、ちょうどひとりで飲んでいた老紳士が、自分の飲んでいたコアントローのグラスを差し出して、「ちょっと飲んでみなよ」と薦めた。
松脂のような強い香りがしたようだった。
ひとくち口にするとアマイ。

以来、コアントローと、同じオレンジの香りのする、より甘口の(よりお高い)グランマルニエが、お気に入りのお酒になった。